オクトパスは右側から?左側から?


 上の写真は、先日2015年12月23日 潜り納めでの、
 タコ(オクトパス)を写したものです。

 こんにちは。
 今回は、よく議論されることがある
 オクトパス(セーフセカンド)の取り付け位置についてです。

 オクトパスについては、過去から様々な議論があり、
 そして一般的になった今、右か左かで新たな議論があります。
 実は、議論の絶えない、変わった道具でもあるのです。
 
 非常にマニアックな話になりますが、
 とっても大切なことなので、ブログに書いてみようと思います。

オクトパスについて

・オクトパスって?

 オクトパスとは、予備のセカンドステージです。

 メインセカンドステージが凍結してしまった際に交換したり、
 バディがエア切れの際に貸してあげたり、
 トラブルに対処するための道具です。

 
・なぜオクトパスと言うのか?

 呼び方は、予備のセカンドステージ、セーフティセカンド、
 セーフセカンドなど様々ですが、1本ホースを「タコ足」の様に
 追加することを指して「オクトパス」と言われています。


・予備空気源?

 勘違いから、予備空気源と言われることもありますが、
 追加の予備ガスではなく、使用しているガスをシェアするだけなので、
 予備空気源ではありません。予備のセカンドステージです。

 もちろん、バディがエア切れの時は、自分もエアが少ない事も多く、
 よくトレーニングし、きちんと計画を立て、しっかり確認する。
 このことが非常に大切になります。

 付けているだけで、安全になったわけでは無いのです!

TUSAのオクトパスはコストパフォーマンスに優れています。


マレスのオクトパスは様々なグレードがあります。

オクトパスは昔から議論のまと

・昔から議論が絶えなかった
 
 いつからオクトパスが使われる様になったかは、
 実は、私にはわかりません。(すみません勉強不足です)

 ただ、手元にある資料では1980年代にはトレーニングにて
 使用されています。しかしながら、支持、不支持と、
 意見も割れていた様です。

 手元にある資料で、1987年 NDA NEWS で取り上げられた
 予備のセカンドステージに関する調査結果を、
 和田 貴弘さん(NAUI 9756)が訳されたものを読んでみると、、、

 予備のセカンドステージを、オープンウォータートレーニングでの使用を
 要求することについて、57%が「反対する」、43%が「支持する」
 という結果で、意見が割れていた様です。

 その反対理由を引用してみると、
  1. 義務付けるとインストラクターの責任が増大する。
  2. 水中でも陸上でもひっかかる。
  3. 自分自身を信頼するより、バディを信頼することを教えることになる。ロードアイランド大学の事故報告によると、ダイビング事故の75%はバディが不在である。
  4. 必要性を論証する根拠が無い。トレーニング中のエア切れ事故は極めて稀である。トレーニングを安全にするものではない。
  5. 予備のセカンドステージは予備空気源ではなく、安全性の保障が無い。予備の空気を供給するものでは無い。
  6. 水中活動の抵抗を増大する。
  7. ほとんどのセカンドステージは誤ってデザインされている。それらはしばしば逆さまに口に差し込まれる。
  8. 冷水中でのレギュレーターのファーストステージの凍結という問題を増大させる。
  9. 初心者のダイバーが器材を購入する場合、おそらく予備のセカンドステージは最後に揃えるものである。
  10. 18mより深い水中から浮上するには好ましいが、初心者レベルのトレーニングをする水深のように浅い水中では好ましくない。貴重な時間がバディの位置を突き止め、そこまで到着し、空気源を確保しようとすることに費やされてしまう。その時間は緊急浮上のために使われるべきである。
  11. もし予備のセカンドステージを装備した供給者の空気圧が少なければ、二重の非常事態を招く恐れが有る。
  12. 余分な装具は、基本的技術に焦点を合わせるべき受講生に重荷を与える。
  13. フリーフローを起こして空気を減らしがちである。
  14. 砂や泥を破片で詰まらせることがある。
  15. 主たるセカンドステージほど装備が行き届かない傾向にある。
  16. 模範的な形状やデザインがない。
  17. 取り付けや使用に関する基準がない。これらのことは、この装具の使用を要求する前に開発されるべきである。
  18. 予備のセカンドステージは、滞底時間の危険な延長を促す可能性がある。
  19. 予備のセカンドステージを取り付けると、故障要因が増える。
  20. スクーバダイビングの訓練を受けていないスノーケルダイバーに使い方を促すことになる。
  21. 誤った安心感を生み出しかねない。
  22. 予備のセカンドステージの誤った取り付けや保管や装着が、事故に通じることがある。
  23. 特別なトレーニングが要求される。
  24. 余分なホース類が、初心者ダイバーにとって技術の動作をより難しいものにしてしまう。
  25. 器材に依存することが技術能力を低下させるかもしれない。
 
 でした。もちろん、現在は解消されている内容もありますが、
 今でも重要な部分は、アンダーラインを引いてみました。

 支持理由も引用してみます。
  1. 指導ポイントを強化する。
  2. エアシェアリングという問題を縮小させる。
  3. より多くの器材が売れる。
  4. ダイビングの安全という局面での確実な証拠である。
  5. 受講生の不安を少なくする。
  6. 安全のための器材という重要項目に、ダイバーを従わせる。
  7. エアシェアリングを容易にする。
  8. 初心者は1本のレギュレーターで落ち着いてバディブリージングをすることができない。
  9. 1年に1度だけ(本数)と言うダイバーの安全性を高める。
  10. エア切れの際の手順の選択を拡大する。
  11. 生徒の自信を増大させる。
  12. レギュレーターの交換技術を高める。
  13. 安全のための予備のセカンドステージと言う概念を強める。
  14. 空気供給者が、自分のレギュレーターを渡す必要がない。
  15. その装備に反対する、これといった理由がない。

 でした。こちらも、時代を反映していますが、
 重要な部分をアンダーラインを引いてみます。

 この資料の時代は、まだまだ一つのセカンドステージをシェアする、
 「バディブリージング」が、基準にあった時代です。

 ちなみに、今のNAUIは、初心者のトレーニングから
 「バディブリージング」は除かれており、
 「オクトパスブリージング」を重点的に行っています。

 現在は、予備のセカンドステージを使用した、エアシェアリング
 が一般的になりましたが、前述のアンダーライン部分は、
 まだまだ気をつけなければなりません。

 オクトパスは、その使い方によっては、
 バディとのダイビングを安全にも、危険にもするものです!



・今の議論「右だし?」「左だし?」

 「右出し派」「左出し派」
 どちらも、しっかり理論がありますから、
 どちらかを否定するものではありません。

 私的な意見としての結論は「どちらでも良い」です。
 前述の反対意見、17項にある通り、どちらでも良いでは、
 誰がいつエア切れになっても共通した対応が取れない。

 理想なのは、車の運転のように、
 赤になったらブレーキを踏む。カーブはハンドルを回す。 
 と、言うように体の反応が良いのかもしれません。

 ですが、私の考えでは、その部分は、エアシェアではなく、
 マスククリアや、レギュレーターリカバリークリアです。

 オクトパスの右だし、左出しは、
 右ハンドル、左ハンドルの違いであり、
 それも、運転者が反射的に体得する部分だと思っています。

 ただし、相手があっての対処でもありますから、
 お互いに、潜水前には確認をしたり、
 バディで定期的にトレーニングするべきだと考えています。

オクトパスポケットがあるBC

右、左と両サイドに対応


・もっとも重要なことは!?

 オクトパスの「右だし」「左出し」以上に
 重要なことがあります。それは、

  1. ストレス状態にあるバディに咥えさせる、またはメインがトラブルの時に交換することを考えると「きちんと機能する」オクトパスを用意すること。
  2. すぐに使える、ケース内に溜まった砂を吸い込まない、引っかかることによる拘束や故障を防ぐために、しっかりホールドすること。
  3. 自分の器材構成(コンフィグレーション)に対する使い方を、しっかり体得すること。
  4. 一番大切なことは「近くにバディがいるか?いないか?」を確認し、オクトパスブリージングアセントか、緊急スイミングアセントかを判断することです!

○オクトパスのメリットデメリット

・右だしのメリット

 右だしとは、右肩からオクトパスを出すことです。

 咥えるマウスピースに対して、ホースは右から出ていますから、
 自分のメインが凍結などで、通常の呼吸ができない場合に、
 簡単に交換し、呼吸することができます。

 ただし、凍結の場合は、強いフロー(漏れ)があるため、
 エア切れになる前に、浮上を開始しなければならないことは
 理解しておくべきです。

 もう一つは、
 「エア切れのストレスダイバーは、レギュレーターを奪いにくる」
 と言うことも、考えるべきです。

 その際に、自分が咥えやすいのが、オクトパスの右だしです。

右だしのオクトパスの場合

 何れにしても、自分が咥えやすい。
 というのが、右だしのメリットになります。


・右だしのデメリット

 端的に言うと、相手が咥えずらいことです。
 写真のように、ホースがS字に曲がることで、
 ストレスダイバーにとっては、咥えづらいものになります。

 ホースを手で固定しなければ、口からセカンドステージが
 外れてしまうこともありました。

 また、慌てて、ホースにストレスがないように咥えることで、
 レギュレーターが上下逆さまになってしまい、
 パージすることができず、溺れたと言うことも目にしました。

 オクトパスは、通常のメインセカンドステージよりも、
 ホースは長いです。(概ね90cm)
 それでも、ホースの戻ろうとする力がかかり、咥えずらいです。

 呼吸ができず、二酸化炭素も過剰になっている相手は、
 最適なオクトパスであっても、正しく呼吸することが難しい。

S字に曲がるホース
 
 ここが、右だしのウィークポイントです。


・左だしのメリットとデメリット

 ここは、端的にまとめます。
 右だしのメリット、デメリットが逆になるわけです。

相手が咥えやすい
 
自分が咥えづらい

 このほか、左だしのメリットとして、
 自分が右側に位置すれば、相手は左に位置することになり、
 オクトパスを咥えた状態で並走することも可能です。

並走はしやすい


・理想的なオクトパスは?

 右だしの場合は、柔らかいロングホース(約2mほど)をメインにし、
 オクトパスにレギュレーターネックレスを付け、
 エアシェアリングをするときは、メインを貸し、
 自分はオクトパスを使う。
 ロングホースの相手に、自分の前を泳いでもらうことで、
 目視しながらエギジットすることができます。

 ただし、バディともにトレーニングが必要ですし、
 一般的な初心者講習の基準には無いため、
 保険等の対象外になってしまうことがあります。


 左だしの場合は、セカンドケース側のホースに、
 スイベルを取り付け、ホースによるストレスを、
 少しでも軽減することが良いかもしれません。

 ビーイズム社のダブルスイベルは、右でも左でも、
 問題なく機能するセカンドステージです。

 ただし、それぞれのメーカーには、それぞれ、
 重要視している部分に違いがありますから、
 いろいろ吟味する必要はあります。

 インストラクターと一緒に考えて、
 最適なオクトパスを選ぶことが、
 また、ダイビングの楽しみの一つでもあります。

エイペックスのセカンドステージ

ホースの出方を変えてみます
分解した状態


ホースの出方が変わりました
 ※ホースの出方を変えられる機種もありますが、
 オクトパスの右、左の問題を解消するものではありません。
 右でリカバリーできない方が左からメインを出したりする場合に有効です。


・共通のデメリット

 オクトパス(予備のセカンドステージ)の右だし、左だしに関わらず、
 共通のデメリットが「予備空気源では無い」ことです。

 あくまでも、一緒に潜っているバディのエアをシェアする、
 使用中の、一つのシリンダー(タンク)から、
 残ガスを同時に呼吸することになります。

 水深が深ければ深いほど、
 さらに、ガスの消費が速くなり、

 また、グレードの高いファーストステージでなければ、
 同時呼吸で、流量が足りなくなり、
 呼吸しずらくなることもあります。

 レギュレーターの違い(価格の違いなど)は、
 こういう場合に、信頼ができるものか?
 と、言うことも、念頭に置いておきましょう。

 NAUIのEANxインストラクターガイドでは、
 インストラクターは、18m以深での潜水では、
 エア切れはあってはならない事態なので、
 ポニーボトルを携行するように記載されています。

 何れにしても、オクトパスは、
 あくまでも予備のセカンドステージであり、
 呼吸ガスを増やしているものでは無いことを前提にするべきです。

 自身の呼吸量を把握することは、とても重要です!


・予備空気源とは?

ポニーボトル

 ポニーボトルなど、予備ガスのことです。
 シリンダーにレギュレーター機能が付いた
 小さなものもありますが、短時間でガスは無くなります。

 大きくすると、その分安全性は高まりますが、
 レギュレーターを別に用意する必要があることと、
 大きくて、装備に慣れが必要です。

 発展型とも言えるものは、
 デュアルサイドマウントと言えるかもしれませんね。


・インフレーター+オクトパス

AIR2

 スキューバプロ社のAIR2、アクアラング社のエアソース、
 その他、多くのメーカーで、BCインフレーターに、
 オクトパス機能を装備したものがあります。

 これは、バディがエア切れを起こした際、
 メインのセカンドステージを渡し、
 インフレーターについたオクトパスを自分が咥える。

 と、言うものです。

 ただし、これは、ホースがインフレーター用と共有なので
 合理的でもありますが、正しい手順を練習する必要があり
 また、メインのレギュホースを長くしておく必要があります。

 このことを、正しく理解していなければ、
 危険な場合もあります。

 心当たりは、ありませんか??
 

・フルフェイスマスクのオクトパス

 フルフェイスマスクは様々な種類があります。

 比較的安価で、すでにあるレギュレーター資産を
 応用できることもあり、マンティスフルフェイスが
 多く使用されているようです。

マンティスフルフェイス

 ただし、万が一のメインの故障や、
 マスクの故障があった場合、
 溺れてしまうことが考えられます。

 そのため、必ず装備するものとして、
 自分用のオクトパス(右だし)
 そして、予備のマスクが必携となるわけです。

 そして、水中でそれらを交換するトレーニングも
 絶対的に必要となるのです。

 販売する側も、使用する側も、
 このことを十分理解しておく必要があります。

 ちなみに、OTS社のフルフェイスマスクや、
 作業で一般的なAGAフルフェイスマスクも
 同様の事が言えます。

 OTS社のウェブサイトでは、
 水中交換のムービーも掲載されています。

 日本のメーカーである「ダイブウェイズ」の
 フルフェイスマスクは、セカンドステージの故障でも、
 マスクを外す事がなく、エアシェアを行えるように
 開発されています。よく作られたマスクです。

ダイブウェイズのフルフェイス


・ポセイドンではどうなのか?

 我がポセイドンでのオクトパス指針は、
  • 相手が咥えやすいことに重点を置き「左だし」
  • 水温が10度未満になった場合は、セカンドステージの凍結を考慮し、自分が交換しやすい「右だし」
 と、寒冷地特有の問題を考えて、水温で切り替えています。
 もちろん、もっともっと、
 周知と練習機会を作る必要があると思っています。

 是非、一緒にトレーニングを行いましょう。

工藤の冬用ユニット。オクトは右だし。

講習が多い夏用ユニット。オクトは左だし。


 最後にまとめますと、

 オクトパスは右でも左でも、メリットデメリットを考慮し、
 使用する本人の体得、そしてバディとの確認、練習が必要。

 それ以上に、万が一の場合の判断を素早く行うこと、
 オクトパスが使いやすいコンフィグレーション、
 きちんと機能するオクトパスの用意、

 これらがとても重要だということなのです。


 オクトパスは滅多に使わないから。。。
 つけているだけで、吸ったこともない。。。
 なんでもいい。。。
 最初に講習してから無意識につけているだけ。。。


 そういう方は、要注意ですよ!

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