新高気圧作業安全衛生規則と小田原セミナー


 ダイビングの世界は様々。
 レクリエーションと呼ばれたりもすれば、
 スポーツと呼ばれたりもする。

 レジャーという言葉は、一般的かつ簡単に言うと

 「趣味などに使われる”時間”」であり、
 レクリエーションという言葉は一般的に、
 「娯楽、気晴らしなど」である。

 スポーツは、もっと幅広く、ウィキペディアにある内容を引用すると、

 競技として勝敗や記録を主の目的として行う場合は「チャンピオンスポーツ」
 遊戯的な要素を持つ場合は「レクリエーションスポーツ」
 との事である。

 要するに、ダイビングは多様な姿を持つ「スポーツ」である。


 SCUBAは自給気式水中呼吸装置の事であるので、フィンスイミングの「イマージョン競技」は、競技性のあるダイビングだと考えることもできる。


 全日本スポーツダイビング室内選手権大会は、全国の水産系高等学校なども参加する。


 ダイビングは、レクリエーションだ、いやスポーツだ、と言う議論が過去にあったが、実際は「スポーツ」であって、チャンピオンスポーツ、レクリエーションスポーツと、両方なのである。


 と、言う話を、品川から小田原へ向かう電車の中で、

 須賀次郎さんと話していました。

品川駅構内にて

小田原駅到着

須賀次郎さんとアクアラング畠中さん

自撮りしました。

 スポーツとしてのダイビングは、今後書いていきます。 

 話はここから、ちょっと飛ぶのですが、

 そのスポーツダイビング指導者は潜水業務に当たります。

 スクーバで、リサーチダイビングを行うのも潜水業務。

 応需送気式で、水中溶接、溶断なども潜水業務。
 定量送気式で、港湾工事、潜水漁業なども潜水業務。

 これらは全く目的も、環境も、手法も異なる「異業種」なのですが、



労働安全衛生法 第61条  
事業者は、クレーンの運転その他の業務で、政令に定めるものについては、都道府県労働局長の当該業務に係る免許を受けた者 、、、(中略)当該業務に就かせてはならない。

労働安全衛生法施行令 第20条  
法第61条第1項の政令で定める業務は次のとおりとする。  
1〜8(略)  
9 潜水器を用い、かつ、空気圧縮機若しくは手押しポンプによる送気又は、ボンベからの給気を受けて、水中において行う業務

 以上から、異業種であっても、事業者が労働者に対し、潜水業務に就かせる為の「潜水士免許」を、等しく取得させる必要が出てくるわけなのです。


 その、厚生労働省所管の「労働安全衛生法」に基づく免許「潜水士」

 今年4月に、様々なことが定められている省令「高気圧作業安全衛生規則」の一部が改正、施行されます。

 以前にもフェイスブックやブログにも簡単に書いていましたが、今回はもう少しだけ書こうと思います。


 「潜水調査や工事、漁業だけではなく、スポーツダイビングの指導、運営も、法令を知っておかなければなりませんし、事業者、監督者は企業コンプライアンスとして、特に理解しておかなければならないことなのです。」

 法令の改正ポイント

(事業者の責務)
 第1条(新設)事業者は、労働者の危険又は高気圧障害その他の健康障害を防止するため、作業方法の確立、作業環境の整備、その他必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
 ※安全率の高い減圧のための浮上停止や酸素減圧、混合ガス使用など。

(作業計画)
 第12条の2 事業者は、潜水業務を行うときは、高気圧障害(高気圧による減圧症、酸素、窒素又は炭酸ガスによる中毒その他の高気圧による健康障害をいう)を防止するため、あらかじめ、潜水作業に関する計画(作業計画)を定め、かつ、当該作業計画により作業を行わせなければならない。
2 一 潜水作業者に送気し、又はボンベに充填する気体の成分組成
  二 潜降を開始させる時から浮上を開始させる時までの時間
  三 当該潜水業務における最高の水深の圧力
  四 潜降及び浮上の速度
  五 浮上を停止させる水深の圧力及び当該圧力下において浮上を停止させる時間

 第20条の2 事業者は、潜水業務を行う都度、第12条の2第2項各号に掲げる事項を記録した書類並びに当該潜水作業者の氏名及び作業の日時を記録した書類を作成し、これらを五年間保存しなければならない。

 今回の改正で、減圧表の改正が注目されていますが、上記の計画と記録に関し、事業者の責務規定が無かった事から、実のところ、この内容が会社の管理責任者、事業主の頭を悩ませる部分だと思います。

 なぜなら「潜水作業者任せの部分が多かった」と言うのが本音だからです。

(ガス分圧の制限)
 第15条 事業者は、酸素、窒素又は炭酸ガスによる潜水作業者の健康障害を防止するため、当該潜水作業者が吸入する時点の次の各号に掲げる気体の分圧がそれぞれ当該各号に定める分圧の範囲に収まるように、潜水作業者への送気、ボンベからの給気その他の必要な措置を講じなければならない。
 一 酸素18kPa以上160kPa以下(ただし、潜水作業者が溺水しないよう必要な措置を講じて浮上を行わせる場合にあっては18kPa以上220kPa以下とする)
 二 窒素400kPa以下
 三 炭酸ガス0.5kPa以下

 今回の改正のキモは、従来の酸素潜水不可から、条件付きでの酸素潜水を許可するものです。

 この改正から、6m以浅での酸素減圧、一般的なEANx潜水も可能です。
 一項のカッコ書きは、マウスピースを噛みちぎったり、口から離れてしまうことで溺れてしまうことが予想できるため、全面マスク式またはヘルメット式の送気式潜水となります。フーカーはNGとなります。

 また、窒素分圧の規定から、空気中の窒素が80%と考えると、40mで400kPaとなってしまうため、40mをこえる水深での空気潜水は不可となります。

 いままで50mなどでの空気による送気式潜水を行っていた業者は、途中トライミクスなどに切り替える設備が必要となるので、大変な改正ではないでしょうか?

(酸素暴露量の制限)
 第16条 事業者は、酸素による潜水作業者の健康障害を防止するため、潜水作業者について、厚生労働大臣が定める値を超えないように、潜水作業者への送気、ボンベからの給気その他の必要な措置を講じなければならない。

 厚生労働大臣が定める値は、厚生労働省のウェブサイトにてご確認いただくとして、連日の高酸素濃度作業での酸素暴露制限を設けたようです。

 何故、酸素分圧、酸素暴露限界を定めるのかについては、それぞれダイビング指導機関の講習を受けていれば理解できるのですが、潜水士のテキストには基本的にありませんので、3月発売の新テキスト(中央労働災害防止協会編)で詳しく説明がなされるでしょう。

 7月からの新しい潜水士試験には、ガス分圧(ダルトン分圧の法則)、酸素暴露量、この辺が出題される気がしています。

(浮上の速度等)
 第18条 事業者は、潜水作業者に浮上を行わせるときは、次に定めるところによらなければならない。
 一 浮上の速度は、毎分10メートル以下とすること。
 二 厚生労働大臣が定める区間ごとに、厚生労働大臣が定めるところにより区分された人体の組織(以下この号において「半飽和組織」という)の全てについて次のイに掲げる分圧がロに掲げる分圧を超えないように、浮上を停止させる水深の圧力及び当該圧力下において浮上を停止させる時間を定め、当該時間以上浮上を停止させること。
  イ、ロ(略)

 2 事業者は、浮上を終了したものに対して、当該浮上を終了した時から14時間は、重激な業務に従事させてはならない。

昨年の資料

 この改定は、従来の潜水業務用時間表が全て削除され、あらたに16コンパートメントの計算式により、事業者が潜水時間、減圧時間を設定すると言うものに変わります。

従来の潜水業務用時間表
削除となるのは少々さみしいですね。

 新法令は最低限の基準であり、M値の安全率も事業者が設定し、計算する形となりましたが、この新法令以上の安全(減圧時間が長くとれる)が確保できる、公表されている減圧表を使用しても構わないこととなっており、より柔軟になったと言えなくもないです。

 しかしながら、計算は複雑で、また事業者が設定するべきものなので、7月からの潜水士試験では、その計算は出題されないと思われます。

1月末に開催した潜水士講座

学生へ特別講義
沖縄でインストラクターを目指す。


 小田原セミナーにて、この改正について解説された望月先生が、新テキストには、この新しいものによるサンプル減圧表も掲載する予定とおっしゃられていましたので、発売を待つことにしたほうが良さそうです。

 ちなみに、ダイブコンピューターの使用は全く構わないですが、事業者があらかじめ作成するべき作業計画には不向きではありますので、事業者が用意する減圧表と同様のアルゴリズムが搭載されたものだと、スムーズなのでしょう。

 また、ガス圧減少時間は廃止され、反復潜水のためのサーフィスインターバルは採用された減圧表、作業計画により実施され、一律14時間は重激な事を行わせてはいけないということになります。

 さらに、浮上時間は、採用された減圧表によるものであり、10m以下と言う言葉に注意しなければなりません。



 以上の改正から、弊社においても、整備が急務になっており、まずは、高気圧障害を防止する為の措置として、EANxの製造施設を進めています。

棚には潜水関連書籍が並んでいます。

 また、様々な減圧表を比較するために、資料を読み込んでいる最中です(すべて英文ですので、まず英文法から学び直しています)

 と、いうことで、今回の法改正に伴い、昨年東京にて変更についてのセミナーを受講、さらに今回、第16回潜水医学講座小田原セミナーへ参加し、聴講および様々な方とお話をさせていただいた次第です。

小田原セミナー

 小田原セミナープログラム
 ・高気圧作業安全衛生規則 何が変わってどうなるのか?
     株式会社潜水技術センター 望月先生
 ・混合ガス潜水 ・耳抜き不良と潜水事故
     三保耳鼻咽喉クリニック 三保院長
 ・現在の日本のダイバーケア、ダイビング教育の正当性について
     Explorer's Nest 田原先生
 ・中高齢者ダイバーの潜水事故と健康管理について
     順天堂大学 スポーツ医学内科 河合先生

小田原だるま

だるまさんと須賀さん

有名なだるまのこだわり天重
 潜水士試験完全攻略テキストは、別表の縮尺ミスがあったものの、よく売れているそうで、市場在庫が無くなりそうとのこと。

 共著者の須賀次郎さんと、出版会社とのお話で、改訂版を出す予定ではありますが、潜水士試験も4月は法改正直後のため、大きな変更は通例出題されないようで(厚生労働省に確認を取りました)7月以降の試験を元に、なるべく早く出版したいと考えております。

 また、北海道と言う環境に則した減圧表の選択を行ったのち、関係各社様へ、ご提案および普及を行ってまいります。

 スポーツ潜水、調査潜水、工事、漁業など、冒頭で異業種とは言いましたが、一番はじめの練習は、基本的に共通しており、その教育、トレーニングの提供は、弊社のマスト業務であります。

 今後も引き続き、新法令準拠の教育プログラムを考えて参ります。

小田原のういろうがオリジナルです


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